高付加価値産業への労働移動

 雇用が十分確保されている経済では、「生産性の高い産業への労働移動の推進」が正しい。必要なのはこのような労働移動であって、成長産業への労働移動ではない。成長産業=高生産性の産業という幻想からは脱却しなければならない。

 平成28年経済センサス活動調査で、事業従事者1人当たり付加価値額(万円)が示されている。「A~R 全産業(S公務を除く)」では、536万円である。これが賃金、営業余剰などで分配されていく。

 成長産業であってもこの付加価値額が低いものはかなりある。例えば、「76E ハンバーガー店」の従事者は149,506人いたけれども、この付加価値額は136万円に過ぎない。全産業に比べて労働時間が短いとはいえ、低すぎるだろう。

 よく飲食店が人手不足と報道されているが、「M2 飲食店,持ち帰り・配達飲食サービス業」に、408万人が従事しているが、この付加価値額は196万円で、平均の4割に満たない。「人手不足産業」への労働移動も望ましいとは限らない。経済成長を望むなら、高付加価値産業への労働移動を促進すべきだ。そのために必要不可欠なのが、高生産性産業の成長だ。
 付け加えると、高付加価値産業への移動と同じ効果を持つのが、低付加価値産業の事業所が高付加価値産業に転業することだ。同じ産業のまま、高付加価値化してもいい。高度成長期には、これらが同時進行していた。
 蛇足だが、付加価値の生産を目指していない事業もある。別な価値を追求する過程で、副産物として付加価値が作られると、経済センサスで記録されるが、そういう産業から、労働者を移動させる必要はない。「94 宗教」のこの付加価値額は15万円だが、問題はない。