人手不足

 総務省労働力調査によると、7-9月期に労働力人口は前年同期比7万人増加している。雇用者は、前年同期比29万人(役員を除く雇用者なら34万人)増えている。これは、企業などが辞職、合意解約、解雇、定年、期間満了、死亡を含めて退職した労働者をすべて補充して、なお、29万人労働者を増やせた、ということを意味している。失業者は211万人、うち1年以上失業しているのは68万人もいる。これを人手不足というのはおかしい。

 退職者を補充できなかったり、新規採用が十分できなかった企業は、自社に何か問題があるのではないかと考えた方がいい。多くの企業は補充・採用に成功しているのだから。

 検討したほうがいいのは、次の3点だ。

1 求人を適切な方法で行っているか?

2 能力が高い労働者を求めていないか?能力の高い労働者は、現在の会社で満足のいく処遇を受けていることが多い。そういう労働者が転職してくるほどの労働条件を提示できるか?

3 求人条件が低すぎないか?世間並は出さないと優秀な労働者は転職の候補とも考えてくれない。 この条件で働くよりも、失業している方がましだと思われたらどうしようもない。

望ましい人手不足

 健全に成長している経済というのは、労働生産性も賃金など労働条件も低い部門・事業から労働者が、それらが高い部門・事業に移動していく。それによって、平均労働生産性、平均賃金など労働条件が向上していく。

 労働生産性も賃金など労働条件も低い部門・事業が人手不足にならない経済というのは健全ではない。政府は、そのような部門・事業の人手不足は放置しておくべきだ。労働生産性を高め、賃金や労働条件を引き上げようという努力の支援は別として。人手不足がどこで起こっているかの見極めが大事だ。

 
 
 
 
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2021年7-9月期の労働力調査

 7-9月期の失業期間1年以上の長期失業者は、2019年に53万人だったものが2020年には50万人に減っていた。これが2021年には68万人に増加した。状況は深刻といえるだろう。男女別に見ると、男は38万人→34万人→50万人と2021年に急増している。女は、14万人→16万人→18万人と緩やかな増加が続いている。労働市場から退出しない、できない労働者なので、対策が必要だ。

 長期失業者と対照的な「正規の職員・従業員」の変化も見てみよう。2019年は3,492万人だったが、2020年には3,537万人、2021年には3,575万人と連続して増加している。こちらはむしろ改善しているとみられる。男女別に見ても、どちらも改善している。男は、2,326万人→2,335万人→2,343万人と緩やかな増加だ。女は、1,166万人→1,202万人→1,232万人と急増しいる。人数、率とも男を上回る増加だ。女性の割合は、33.4%→34.0%→34.5%と高まり続けている。

 「正規の職員・従業員」と対になる「非正規の職員・従業員」は、2019年は2,189万人→2,020年は2,064万人と大きく落ち込み、2021年には少しだがさらに減って2,060万人になった。男女で推移に差があり、男は、706万人→660万人→647万人と減り続けているが、女は1,483万人→1,404万人→1,413万人と増加に転じている。

 このうち、「正規の職員・従業員の口がないから」とするものは、同じ期で、2019年は239万人、2020年は107万人、2021年は211万人と減少が続いている。こちらは推移に男女差がなく、男は119万人→107万人→100万人と、女は120万人→115万人→112万人と、どちらも減少を続けている。非正規全体に占める割合は、2019年は10.9%、2020年は10.8%、2021年は10.2%と低下傾向だ。男は、16.9%→16.2%→15.4%と低下傾向にある。女8.1%→8.2%→7.9%と8%前後で変動している。

 この数、211万人は、非正規に占める割合が低いからといって軽視すべきではない。完全失業者191万人よりも多い。正規の職員・従業員を5.9%増やさないと解消できない。取り組みが必要だ。

現金給付嫌いの訳

 18歳以下現金給付、年内に支給開始 政府・与党調整: 日本経済新聞 nikkei.com/article/DGXZQO 「現金給付は世帯主の口座に振り込まれて使途が自由になるため、子育て関連のサービスや用品に確実に使われるようにクーポンやバウチャー方式を併用することも検討する。」

 このように現金給付を嫌うのは何故か?一つの理由は、自由を与えることに抵抗があるからだろう。現金は受け取ったものに自由を与える。いつ使ってもいいし、使わなくてもいい。何に使うのも自由だ。

 公からの給付を受けた人間が自由を得るのがいやで、自主性を認めたくない、言い換えれば、給付を受けた人間をコントロールしたい人にとっては、現物給付がいい。現物給付なら使うことを強制でき、使い道も強制できる。

 この背景には、最もいい使い道は受け取った人間ではなく、国が知っているという理解かもしれない。一種のパターナリズムだ。しかし、この前提は成立するのだろうか?両親がお金のことで口論しなくなるだけでも、こどもの精神状態は良くなる。家族みんなで楽しく外食してもいいではないか?子供に最適の支出を国が決められると思わない方がいい。

 クーポンやバウチャーにするというのも同じ発想だろう。使い道を制限したいのだ。もっとも、クーポンやバウチャーにしたところで、それを現金に換えたり、これまで現金で支払っていたものに充てて現金を節約したりできる。お上に政策があれば下々には対策がある。

 このような対策が明らかになると、また、対策への対抗策を考えなければならなくなる。効果の薄い仕組みを導入して事務を複雑にしない方がいい。

 自由な意思を持つ人間をコントロールできる、コントロールすればいい世の中になるという発想は捨てた方がいい。

採用内定取り消し

 採用内定、その取り消し法的性格

 最高裁判例で、始期付解約権留保付き労働契約成立説が採用されている。したがって、企業などによる採用内定取り消しは、既に成立した労働契約の一方的な解約である。一般に、内定の際には内定取り消しの事由(条件)が文書で伝えられており、これに該当するときは解約できるという合意があったとされる。解約権が留保されていることになる。

 合理性のない取り消し

 合理性のない取り消しの場合は、解約は無効になり、内定者は裁判に訴えて、勝訴すれば、労働契約上の地位確認を得られることになる。

 取り消しの正当性

 取り消しの正当性は、留保されていた解約権行使が適法(有効)であるかどうかの問題と考えられる。文書に書かれていた解約事由の範囲が明確であり、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的であり、社会通念上相当として是認されるものであれば、正当とされよう。例えば、大学の卒業を条件としていたが卒業できなかった場合が考えられる。

 漠然としたものである場合、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的であり、社会通念上相当として是認されるかが問題となる。

 

政策科学の役割

マックスウェーバーの「社会科学と社会政策にかかわる認識の『客観性』」による説明がある。

1 目的と手段

何かを求めるときには、それ自体に価値があるためか、究極において求められるものの実現、達成に役に立つからか、どちらかである。例えば、地球の温暖化を阻止するという目的のために、火力発電の利用をやめるという場合、地球温暖化防止が目的であり、火力発電の利用をやめるというのは手段である。なお、人類の生存のために地球温暖化を防止するといことであれば、それは目的ではなく手段と位置付けられる。究極の目的、それは複数あっていい、から、目的手段の連鎖を考えていくことができる。

2 社会科学的な考察の対象

① 目的が与えられたときに、手段がどの程度その目的の達成に適しているか

 例えば、地球の温暖化を防止するためには、大気中の二酸化炭素の濃度を減らすこと(目的)が必要であるとして、そのためには火力発電をやめること(手段)が有効であるという考察がある。

② ①から派生して、そのような目的を達成できる可能性がどの程度あるか

 火力発電をやめる(国家の権力を用いてやめさせる)ことは不可能ではない。

③ ②からさらに進んで、その目的を達成できそうな手段(政策)があるから、その目的追求には実践的な意味がある、そのような手段(政策)がなさそうだから、その目的を追求することには実践的な価値がないといった実践上の意味

 これはその目的に価値がないということを意味するのではない。あくまで実践的な意味の有無の判断である。仮に、人類の生存が目的であり、巨大な隕石が地球にぶつかってきて、人類が滅びそうになっているというケースを考える。隕石の衝突を防ぐ方法がないとしても、人類の生存に価値がない訳ではない。

④ ②から進んで、目的を達成できそうな手段がある場合、その手段(政策)を講じることによって、本来の目的以外にどのような波及効果があるか

 火力発電をやめたときには、電力が不足したり、電圧が低下したりする恐れがあるといった考察がある。

⑤ ④から進んで、そのような手段(政策)を採用すべきかどうか

 電力不足を招いてでも、火力発電をやめ、大気中の二酸化炭素濃度を下げるべきかの考察 利害得失を全て考えてどうするかという判断

⑥ ⑤の判断をするときには、複数の究極的な目的(を達成すること)の意義がなんであるか

⑦ 考えている複数の究極的な目標(意義)の間に矛盾はないか

 

要約すれば、何をなしうるか、何を本当に求めているのかの理解は深められるが、何をすべきかを決めることはできない。究極的には何を目標とすべきかは社会科学では決められないから。

 

OECDの Average Wage

 OECDのAverage Wageは、年間の平均賃金の水準と傾向を、国際的に比較するための指標である。ここで、比較すべき「賃金」と考えられているものは、1時間当たりの賃金である。欧米では、Wage  とはそういうものなのだ。日本では、月給、あるいは年収を賃金ということが多いが、そういう意味での賃金ではない。

 この指標は、全産業、すべての種類の労働者をカバーする OECDのNational Accountから計算されている。計算の手順は次のとおりである。

1 SNAの賃金及び報酬(各国通貨建て)を平均雇用者数で割る。これにより、雇用者一人当たりの年間賃金が得られる。SNAには国際的な基準があり、OECD加盟国はこれに基づいて作成しているので、加盟国間で比較可能である。年間賃金、あるいは年収ならこれで済むが、それでは、Wage  の比較にならない。Wage  に比較を目指してさらにプロセスが進められる。

2 これを年間当たり週の数で割る。これにより、雇用者一人当たりの週の賃金が求められる。フルタイム労働者とパートタイム労働者の1時間当たりWage(賃金)が同じでも、パートタイム労働者の割合が高い加盟国では、週当たり労働時間が短いので、週当たり賃金が低めに出る。

3 これをフルタイム労働者、パートタイム労働者全体の平均週当たり労働時間で割る。この労働時間は、それぞれの労働者の主たる仕事のものである。副業がある場合はその労働時間は除かれる。これにより、1時間当たりの平均賃金、Wageが求められる。これを年間の賃金に換算するために、年間の平均労働時間をかける必要があるが、フルタイム労働者とパートタイム労働者の加重平均をとると、パートタイム労働者の割合の高い加盟国は年間賃金が低めに出る。これを防ぐ必要がある。

4 そこで、1時間当たり賃金に、フルタイム労働者の平均週当たり労働時間をかける。この労働時間も主たる仕事のものである。これにより、労働者がフルタイム労働者の平均的な週労働時間働いたときの週当たり賃金が求められる。

5 これに、年間当たりの週の数をかける。これによって、労働者がフルタイム、パートタイムを合わせた平均的な1時間当たり賃金(Wage)でフルタイム労働者の平均的な労働時間働いたときの年平均賃金(各国通貨建て)が求められる。

6 これを購買力平価(PPPs)でアメリカドルに換算する。これにより、各国の平均賃金が購買力平価で表したドル建てで示される。

 

単純にSNAの賃金及び報酬を雇用者数で割ったもの(年間賃金)とは異なるので、注意が必要である。